2016年1月31日日曜日
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成28年(2016)2月1日(月曜日)
通算第4792号 <前日発行>
株暴落も人民元安も「仕掛けているのはジョージ・ソロスだ」
中国はこれら「陰謀投機を跳ね返す自信がある」と中国系メディアが合唱
香港のメディアには北京の代理人的な新聞が目立つ。
な かでも「文わい報」と、「明報」はひどい。「リンゴ日報」は北京に批判的だが芸能とスポーツ記事がおおく(たとえばSMAPの解散騒ぎなど一面トップ)、 政治論評はお世辞にも一流とはいえず、老舗の「サウスチャイナ・モーニングポスト」はなにか奥歯に物の挟まった言い方だ(同紙はアリババの馬雲が買収する ので、北京批判がおとなしくなってしまった)。
さて香港で早朝7時にコンビニへ行くと、新聞は全紙そろっているので、買ってホテルに戻り、毎朝30分ほど、テレビニュースを見ながらざっと読んで、大事な記事は切り抜く。
滞在中、もっとも頻度激しく報じられていたのは、ジョージ・ソロスだった。可笑しな話である。
なぜクォンタムファンドを畳んだ旧投資家が話題になるのか?
株暴落も人民元安も「仕掛けているのはジョージ・ソロスだ」と断定し、しかし「中国はかれらの陰謀投機を跳ね返す自信がある」と香港でも中国系メディアが合唱していた。これは面白いと買いそろえてきた。
なんでもジョージ・ソロスら禿鷹ファンドが上海株安を仕掛け、いまは人民元崩落のために空売りをしているとか。かつて英国ポンド、ドイツマルクに挑戦した昔話でも思い出したのだろう。
しかし1997年アジア通貨危機の時に、ソロスの投機を跳ね返して香港ドルと人民元の崩落を防いだように、香港通貨当局と北京は、断固として、ヘッジファンド筋の空売りに打ち勝つ、と戦闘的な物言いが奮っている。
読んでいて思い出したのは東、南シナ海における中国の開き直りの論理だった。
東シナ海にリグが16基、ガスを採掘している風情はなく、レーダー基地化するのは見え見えで日本政府が抗議すると「ことを荒立て、問題を複雑にしているのはすべて日本政府の責任だ」と開き直った。
あの開き直りとすり替えの論理を思い出したのだ。
南シナ海の人口島建設と滑走路建設に米国が抗議すると「域外国は口を挟むな」と言い、アセアンの主要国が強く抗議すると「もともと古来よりの中国領、文句あるか」と傲然と開き直った。
こ うした論理的すり替えがお家芸の中国ゆえ、驚くほどのことでもないが、やっぱり人民元安、株暴落の原因は破天荒に自滅的なギャンブルを繰り返した、中国の 自業自得の結果であり、外国ファンドの責任はなにもない。いや、むしろ欧米の禿鷹ファンドの手口を真似て、上海株の空売り、通貨投機を背後で画策したのは 欧米留学帰りで香港で怪しげなファンドを運営する太子党の連中である。
しかし、仮想敵をでっちあげ、問題の本質をそらす必要が中国にあるのだ。
▼つねに独裁者には仮想敵が必要なのだ
香港の新聞スタンドでも、こうした論調のもと、表紙がジョージ・ソロス、週刊誌『壱』は、ジョージ・ソロスの右腕だったジム・ロジャーズがカラーの表紙だった。
株暴落の犯人をいうなら習近平ではないのか?
ソロスが97年から発生したアジア通貨危機ではタイ・バーツとマレーシア・リンギに先売り投機を仕掛けた。
悲鳴を挙げたマレーシアは取引を停止し、ついには外国への資金送金を規制するなど当時のマハティール首相の豪腕によって、かろうじて最悪の危機を脱した。
通貨が「商品」として取引されるとなれば、、そのメカニズムが脆弱な通貨は狙われやすい。
このとき、ソロスは香港ドルもたしかに狙ったが、当時も今も香港ドルは米ドルペッグ制であり、投機目標としては魅力に乏しく、まして当時の人民元は紙くずでしかなく投機するに値しない通貨だった。
「あのときも香港当局がソロスらを撤退させたのだ」とする自慢話は過剰な誇張表記である。
原油市況をみれば、あるいは納得できるかもしれない。
1バーレル26ドル台などと極端な値崩れも需給関係によらず、投機筋の先安を見込んだ空売りと、買い戻しの繰り返しの結果、おきていることである。
まだ空売りに余地があるため、もう少し原油相場は下がるだろう。実需とは無縁のメカニズムが構築されているからだ。
米ドル、ユーロ、日本円、そして英ポンドも通貨が投機目的の「商品」でもある以上、相場の乱高下は繰り返される。
このメカニズムに準拠するブラジル・レアル、南ア・ランド、カナダドル、豪ドル、NZドルなども人民元と並んで下落の最中にある。
▼ソロスのダボス会議発言に猛反発して
しかし、変動相場制ではなくドルペッグを採用する通貨は、投機筋の攻撃にも耐えられるのである。換言すれば人民元には国際性、利便性がないからである。香 港ドルは発行上限枠を設けた地域通貨だから、むしろ人民元の乱高下に比例する。人民元は需給関係と金利でレートが策定される特徴があり、年初来の株安、通 貨安は当局のマネーサプライの異常な膨張に連動していることは明白である。
だれが見ても先行きは通貨暴落である。
つまり、ここで言いたいことは昨夏からの人民元安はジョージ・ソロスとは何の関係もない。ソロスがなぜ、中国によって目の敵にされたかと言えば、ダボス会議の発言への激しい反撥からなのである。
ダボス会議でソロスはこう言った。
「中国経済のハードランディングは不可避的である」と。
また上海株安を仕掛けて儲けたのもジョージ・ソロスだと中国は難癖を付けたが、ソロスが中国企業株を売却したのは「米国市場」であり、アリババ、百度など通信関連の保有株ぜんぶを売り抜けたことは事実だ。
しかしいずれもが米国に上場している中国企業株であり、上海株暴落の震源とも仕掛け人とも言えないのである。
中国株の下落、人民元の崩落はソロスとは無関係にこれからが本番である。
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