2016年11月30日水曜日

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成28年(2016)11月30日(水曜日)弐
         通算第5116号  
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 トランプ次期大統領。国務、国防、財務長官の指名遅れる
  「オバマケア」を改変「トランプケア」のトップはトム・プライス
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 連日、トランプタワーが賑わっている。
 政権中枢の国務、国防、財務という三つの重要トップがまだ決まらない。ようやくミット・ロムニーが国務長官(前大統領候補)で落ち着いたかと思いきや、陣営内から猛反対の声が上がった。
ロムニーは、トランプを「詐欺師」と批判した人物だけに、「党内の宥和を優先する」と言っても、このトランプの帷幄では、シコリが大きい。

 ペトレアス元CIA長官が、国務長官に急浮上した。
この背景には、国務省の風向きをひっくり返そうというトランプの意思が感じられる。国務省はハト派、リベラルの巣窟であり、たとえば日本の米大使館スタッフは大多数が民主党支持者という偏波な構造になっている。
 これが米国の外交政策遂行の上で、障害となることがあるからだ。

 トランプ次期大統領は、ロムニーと再度会談に臨み、それから最終的な指名を行うと見られる。それによって人事の玉突きがおこり、ジュリアーニ元NY市長が国防長官となる可能性もまだ残っている。
 財務長官の指名がもたついているのはトランプ陣営内部というよりウォール街の合意がまだ形成されていないからと見受けられる。

 商務長官はウィルバー・ロスで決定した。かれは知日派とされるが、企業解体屋、会社更生法の逆利用で巨富を築いた投資家である。
 厚生長官はトム・プライス下院議員(ジョージア州選出)が指名された。トム自身、外科医であり、しかもオバマケア反対の急先鋒だった。

トランプはオバマケアを抜本改革すると公言してきた。今後は「トランプケア」構想を固める方針だ。
 トム・プライス長官を支える保険医療改革チームのトップにシーマ・ベルマ女史が指名された。シーマはインディアナ州人脈でペンス副大統領に近い。このふたりが「夢のチーム」を率いるとトランプは発言した。

 このシーマ指名で沸き立っているのはインドである。じつはニッキー・ヘイリーに続いて二人目のインド人女性だからである。

 もうひとり、中国系女性が閣僚に指名された。
 エライン・チャオ(華人、ブッシュ政権下で労働長官)が運輸長官となる。チャオはマコネル共和党下院院内総務夫人でもあり、政治力が高い。オバマ政権の八年間、彼女は保守系有力シンクタンクの「ヘリティジ財団」やシティコープを渡り歩いた。

 「1兆ドルのインフラ整備」を謳うトランプ政策の目玉は、道路、橋梁、トンネル、鉄道など交通インフラの再建で、この重要ポストは予算が膨大ゆえに、チャオは枢要なポストに就くこととなった。

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 書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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「ゴッホやゴーギャンが生きていたら漫画を書いていたでしょう」(ルーブル美術館)
  日本のアニメに籠められたソフト・アニミズムこそ日本の伝統の流れ

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呉善花『なぜ「日本人がブランド価値」なのか』(光明思想社)
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 近年の来日外国人をみていると、何かが変わっていることに気がつく。
もはや富士山、芸者、京都ではない。エキゾチックな趣向をもとめてやってくる人より、意外な目的をもって、あるいは特定の趣味、調査などを目的としての旅人が増えている。
観光地の景色に浸りながらスケッチをするひと、詩をつくる人がいる。日本酒の銘柄を捜すひとや、寺院で瞑想にふける人がいる。
 団体ツアーよりも個人旅行、日本人でも行かないような山奥や、リゾート化していない田舎に出没する片言の日本語組。ガイドブックにでていない旅行情報、安いホテル情報をかれらはネットで調べ、その口コミを頼りにやってくる。
 なぜそれほどまでに日本に惹かれるのか?
 世界の人々が日本に憧れる本当の理由は何か? 本書はその疑問に答えてくれる。
 世界的な爆発ブームとなったのは昨今のポケモンGOだった。
 許世偕元台湾駐日大使とは引退後も日本に来られるごとにお目にかかるが、世界に散らばったお孫さん達は「日本語、英語、北京語と言語が異なるのに、孫同士のコミュニケーションはポケモンで成り立つ」と言って、評者(宮崎)を驚かせたことがある。ポケモンGOブームの遙か以前のことだった。
 動画とかアニメとかは、サブカルでしかなく本物の日本文化と誤解してもらっては困るなぁと考えてきたが、呉善花さんの本書によれば、「もしゴッホやゴーギャンが生きていたら、漫画を書いていたでしょう」とルーブル美術館の専門家が言ったそうな。

 たとえば庭園の作り方について、日本と中国と西洋の庭園に対する考え方がたいそう異なる。
中国の、たとえば蘇州の「名園」なる庭園をたくさん見学してきた評者(宮崎)も、この点には大いに同意できる。中国の庭園はじつにグロテスクである。美的感覚がまったくないと思ったことが何回もある。
 そのことに注目して、呉さんは秋田県大湯にあるストーンサークルを例に持ち出す。
 「日本庭園の、石を立てたり組んだりすることのルーツはどこになるのでしょうか。それは大陸文明が伝わる以前、さらには農耕文化がはじまる以前の、縄文時代の文化に求めることが出来ます。(中略)多くが自然の神々の祭場跡と推測されています。古くから日本人は、海や川、山にある天然の石に、その彼方からくる神が宿るとして神意を感じ、「磐座」(いわくら。神の御座所)として祀ってきた歴史があります」。
 そしてこうも言われる。
「伝統的な日本庭園は、自然との間に作庭者の見立てという見えない橋が架かっており、その見立ての妙にこそ、生命があると思います。日本の庭というものは、天然自然との間に見立てという精神の橋を架けることで出現する、『もう一つの自然』なのだといえるでしょう」という見立てになる。

 本書で指摘されているように日本庭園は奈良・平安時代から美意識が優先され、自然との調和がなによりも尊ばれた。
 小堀遠州の造作した庭園の美しさも、京都南禅寺や醍醐寺の庭園の見事さも。
 三島由紀夫の最後の作品『天人五衰』(『豊饒の海』第四巻)の最後の場面も円照寺の静寂を極める庭園の描写である。

 明日香の石舞台、亀石などは古墳なのか、神殿なのか不明だが、イースター島のアモイ像とは異なった配置、見たての相違がある。巨石神殿は、世界に幾つもあるが、日本のそれと似ていると思ったのはマルタ島にいくつも残る巨石神殿の神々しさだった。古代文明は謎だらけである。

 アニメゲームの「たまごっち」も、呉さんは「これは神道に特有のソフトアニミズムの成果であり、その世界的な普及はソフトアニミズムが世界性をもっている現れ」とした。
 「未開社会に特有なアニミズムの世界では、たとえば人形を作れば、それは人の魂を移らせる呪術行為となります。こうした感覚があまり強ければ、いつまでたってもアニミズムの世界から抜け出ることはできません。しかし、その世界を完全否定するのではなく、ソフトに和らげた感覚をもって生かしながら文化をつくっていこうとするのが、日本に特有なソフトアニミズムです」
 お茶と生け花、和服の似合う著者は大学でも宗教学も教えている。その経験から生まれた独特な文化論は傾聴に値する。

(余滴)トここまで書いて帝国ホテルへ出かけた。第二十五回山本七平賞の授賞式で、近年この賞には石平、加藤康男、渡邊惣樹ら周囲の人たちが受賞されている。今回は韓国で不当に起訴され、無罪判決まで戦った加藤達也氏と『ドイツリスク』を書いた三好範英氏である。
 さて会場に入ってから思い出した。呉善花さんは、この賞の選考委員であり。今回は渡部昇一に替わって選考の経過を報告した。
乾杯後の雑談で、「受賞の加藤さんの『朴大統領の七時間の疑問』を書いての受賞のその日に朴大統領が辞意を表明。なんという運命の巡り合わせでしょうか」。
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