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「2017年世界の真実」長谷川慶太郎(著) 日本の金融機関は
世界でただ一つ、長期資金を貸せる余裕を持つようになった。
2016年11月14日 月曜日
◆「2017年 世界の真実」 長谷川慶太郎(著)
◆安倍総理はどうやって「大きな発言力」を手に入れたのか
洞爺湖サミット以来、八年ぶりに日本が議長国を務め、二〇一六年五月二十六日から二十七日にかけて、G7の首脳会議が三重県の賢島で開催された。G7はかなり前から形骸化し、単なるセレモニーの場と見られてきた。特に二〇〇八年のリーマンショック以降、先進国だけでは力不足とされ、新興国を含めたG20が重視されるようになった。しかし、今回の伊勢志摩サミットは従来のようなセレモニーではなかった。議長国・日本の安倍晋三総理大臣がG7の改革を図ったからだ。これは本人が口に出して言っていないけれど、間違いない。
普通、サミットの準備段階で中心になって動くのは「シェルパ」といわれる官僚だ。日本ならば財務省の財務官クラスがシェルパを務め、首脳会議を含めてサミットの根回しをする。ところが、今回はトップの安倍総理自らが根回しに動いた。サミットの前に議長国のトッブが参加国を回るのは異例である。これは官僚レベルでは荷が重いテーマに挑戦したことを間接的ながら示している。
では、伊勢志摩サミットで企図された「G7の改革」とは何か。安倍総理の狙いはG7を恒久的な国際機関に組織することだ。それを象徴するのが、官僚よりも上位の国務大臣による会合である。
原油の先物相場がどうなるか等々、今後のエネルギー情勢分析を含めた経済問題に関して、財務大臣と中央銀行総裁が仙台で討議し、農業大臣は新潟で会合を開いた。外務大臣の会合は広島で開催された。この他、環境、教育など、それぞれの分野を所管する大臣による会合が、二〇一六年中に合計十回、設定されている。これはサミットを盛り上げるための「イベント」ではない。極端な表現をするならば「各国の行政機構を統合する」ための第一歩に位置づけられるだろう。
伊勢志摩サミットによって、「新しいG7体制」がスタートしたと言っていい。来年はイタリアが議長国だが、たとえ、ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任しても、同じようなサミットをやらざるを得ないはずだ。
この新G7体制は安倍総理のイニシアチブによって実現した。もっとも、今までのように行かない」と言って蹴られるのがオチである。ところが、洞爺湖サミットの頃とは異なり、今や日本の国際的な発言力は飛躍的に大きくなっている。だから、安倍総理はG7改革の第一歩を踏み出すことができたのだ。
では、安倍総理はどうやって「大きな発言力」を手に入れたのか。最大の鍵は「デフレ」である。
二十世紀はインフレの時代だった。この百年間で、いろいろなシステムが固定化した。その固定化したシステムをつぶし、新しいシステムに切り替えなければいけない。それがデフレヘの移行の意味であり、現実にデフレは世界中で急速に広がっている。
その時代にあって、デフレに対応する体制をとるのが早かった国は強い。それが日本である。デフレ下の経済というのはどういうものか。それを日本は二十年かかって模索した。何の見通しも立たない中で一所懸命、体質強化を図り、資産内容の洗い出しなどを地道にやってきた。その結果、バブル崩壊後の経済危機から立ち直った。これはとりもなおさず、日本がデフレの時代に世界の先頭に立っているということだ。先頭にいるからこそ、安倍総理の言うことも通ったのである。
◆AIIBは実質上「開店休業」
日本の金融機関は世界でただ一つ、長期資金を貸せる余裕を持つようになった。巨額の長期資金貸出は、アメリカの金融機関もヨーロッパの金融機関もできない。もちろん、中国もできない。
中国はAIIBという国際開発金融機関を提唱し、今年に入ってAIIBは業務を開始した。最初の仕事は「債券の発行」であるはずだが、それができないでいる。スタンダード&プアーズなどの格づけ機関がAIIBの発行する債券を格づけしてくれないからだ。格づけされない債券は、信用が「ゼロ」でなく、「マイナス」である。そんな債券を誰が買うのか。したがって、AIIBは開店休業状態が続いた。
格づけされない原因は、AIIB主導国の中国に長期資金が乏しいことである。そのために、中国の造船会社が日本の造船会社の下請けになるという事態が起こっている。具体的に言うと、中国の造船会社がシッピングローンを提供できなかったのだ。
シッピングローンは最低十年の長期にわたり、普通は十五年まで延長する。しかも、これは船舶保険がついていて、船が沈んでも保険会社が海上保険を発動して全額補償してくれる。こんなありがたいローンはない。だから、シッピングローンがつかなければ、船主は船を発注しない。また、「シッピングローンがつく」という見通しで発注し、つけられないとわかったら、すぐにキャンセルする。
二〇一五年に中国でシッピングローンがっけられないという事態が生じた。このままでは契約がキャンセルされてしまう。そこで中国の造船会社は船体までつくったものを日本へ引っ張っていって日本の造船会社が仕上げ、それにシッピングローンをつけて輸出した。
飛行機のエアローンも同じだ。なぜ、ボーイング社が急速に業績を落としたか。エアローンを提供できないからだ。エアバス社のほうが、まだましな状態である。
これも日本に関係してくる。今、三菱重工業がつくっているMRJは日本の金融機関がもろ手を挙げて大賛成なので、どこも好条件でエアローンを提供してくれる。だから、顧客のつく余地は広い。
◆不動産の下落に苦しむヨーロッパの銀行
実は今、ヨーロッパで民間銀行のトップクラスが破綻の危機に直面している。具体的に名前を挙げると、ドイツのドイチェバンク、フランスのBNPパリバ、イギリスのバークレイズの経営はきわめて巌しい。なぜか。「デフレ」だからである。
銀行が金を貸すときに担保をとるが、担保とされた不動産が値下がりしている。引当金を積んで担保価値が目減りする分をカバーしようにも、不動産の値段がどんどん下がっているので処理が追いつかない。また、引当金を積んだら債務超過の恐れも出てくる。そういう状況に置かれて、どこも対応が後手に回っている観がある。これでは新たに長期資金を貸す余裕が失われても当然だが、不動産価格の下落で苦しむ姿はバプル崩壊後の日本の銀行を彷彿とさせる。
「失われた二十年」で、日本の金融機関がどれほど苦労をしたことか。例えば三菱東今日UFJと、バブル崩壊前にあった四つの都市銀行が統合して出来た。それぞれの都銀は新宿駅の西口と東口に支店を持っていて、合計すると十一店舗あったが、今は二つだ。九つの支店をつぶしたのである。「つぶした」と言う意味は単に支店を廃止したということではない。建物をつぶす。地下金庫をつぶす。そうして全部更地にした。ある支店の例を紹介すると、更地にするために三十億円以上を投じ、中でも地下金庫をつぶすために十八億円かかったという。こうしてつくった更地を、三菱地所をはじめとする不動産会社に売った。目抜きの四つ角の角地なんて、そうそう売りに出ることはないから、不動産会社は飛びた。それでもってつくった金を不良債権処理に充てたのだ。
それから、不良債権を処理する十年以上の間、どの銀行もCEOを含めて、夏冬ともにボーナスがなく、毎年毎年、申告所得の金額が減った。そういう苦しみを経て、日本の銀行は再建された。
それをヨーロッパの銀行はやっていない。だから、.BNPパリパにしてもバーイズにしても、貸し込んだ債権の補正ができないでいる。デフレヘの対応という点では、日本よりも一周遅れと言っていいだろう。
資産内容のいい日本の銀行は長期資金に余裕があるだけでなく、金利が安いと強みがある。金が余っている国は十年物の国債の利回りが低い。日本はマイナス0、一%、アメリカは一・八%、ドイツが一・三%だから、日本と米独とでは桁が違う。民間企業の銀行が貸し出すときは、長期国債の十年物の金利に一%のプラスブレムがつく。だから、アメリカの銀行は二・八%の金利になるが、日本は国債の金マイナス○・一%なので、銀行の貸出金利は○・九%になる。
そのため、日本の三大メガバンクのCEOは、世界的な超一流企業のCEOの応接に忙しい。毎日のようにやって来て、「金を貸してくれ」と言われるのだ。相手が超一流企業だけに貸出金額も大きい。一ロット百億円はざらである。国際部は儲けるだけ儲けられる。かつて三大メガバンク内で「無駄飯を食っている」といわれた国際が儲け頭になった。
要するに、世界でただ一つ、長期資金を貸せる余裕を持っている国が日本であり、その総理大臣である安倍の言うことは、みんな聞く。「反対するなら、あなたのG7の中でオミット(除外)だ。ロシアのプーチンになりたいのか」と言われたら、フランスのオランド大統領でもプルブルと震えて「安倍さんの言う通りにします」ということに必ずなる。
それが今回の伊勢志摩サミットの裏側である。だから、日本の国際的な地位は、これから高まりこそすれ、落ちることはない。日本は自らの努力でそういう恵まれた条件をつくることに成功したのだ。
安倍総理のイニシアチブが実現した理由を繰り返すけれど、デフレの時代の先頭に立ち、長期資金を提供できる余裕を日本だけが持っているからだ。周回遅れのフランスやイギリス、ドイツも含めて、ヨーロッパの金融界はこれから大変である。大手銀行の倒産が出るのは火を見るより明らかだ。しかも、問題は銀行だけに止まらない。長期資金が貸せないと、一般の大企業も経営が破綻しかねないのだ。それをわかっているから、どの国の首脳も安倍総理の提案をのみ、安倍総理はG7の体制そのものの改革に着手できた。こう考えていただいていい。
◆なぜ、六千人ものジャーナリストが集まったのか
日本の報道に接すると、伊勢志摩サミットを評価していないという印象が強い。多くの新聞やテレビは安倍総理に絶対反対なのだろうが、新聞記者やテレビの報道記者だけでなく、伊勢志摩サミットに正当な評価を下せたエコノミストはいないし、評論家もいない。
しかし、伊勢志摩サミットに六千人ものジャーナリストが来た。なぜか。何もアメリカのオバマ大統領が広島に行くのを見に来ただけではない。感覚の鋭い人はみんな、「大変な変化が起こっている」と、雰囲気を感じ取ったからだ。事実、ヨーロッパもアメリカも、伊勢志摩サミットを大きく報道している。これは欧米の新聞を並べたらはっきりわかる。安倍総理の国際的な評価は大きく上がっているのだ。そういう点で、日本は誠に暢気である。
伊勢志摩サミットの評価でもう一つ、見落としてならないのは、アメリカで進行している「大きな変化」だ。
例えば、なぜオバマが広島へ行ったのか。オバマ自身の「核兵器なき世界」という理念に関係するだけではない。アメリカの核戦力を廃止の方向へ持っていくとすれば、莫大な金がかかる。しかし、核兵器を維持するコストも大きい。核爆弾は経年劣化によって一定の年限がたつと必ず失効し、爆発しなくなる。形式によって違うが、長くても十年以上は持たないから、リプレースしなければいけない。そのあたりのバランスをどう見るか。オバマは非常に直感力の鋭い人であり、そこがわかっている。
一方で、共和党の予備選挙がトランプの圧勝に終わった理由も、オバマはわかっているだろう。保守層の多数が「今まで通りの政治」はやってもらいたくないのだ。「今までの政治体制と反対のトランプに票を入れよう」という発想が、彼を大統領候補に押し上げた。同じようなことが民主党にもあてはまる。バー二ー・サンダース上院議員が大健闘したのは、ヒラリー・クリントンが「今まで通りの政治」のシンボルであり、「クリントンを落とせ」という人が少なくなかったからである。
これは余談だが、FBIがクリントンを捜査した。国務省から許可を得ていない個人の電子メールを使ったことに、国家機密漏洩の疑いがあったからだ。国家機密の漏洩となると、FBIは動く。結局、訴追されなかったが、一番イヤなのは七月の民主党大会でクリントンが指名されたとき、FBIの動きが表面化することだった。サンダースが粘ったのは、クリントンが逮捕されたときを見据えてのことだったのだろう。外務省も朝日新聞もクリントンびいきだから、日本ではあまり語られない話だけれど、その可能性は否定できなかった。FBIからすれば、「大統領侯補も逮捕する。われわれは権力に媚びず、公正を大事にする組織だ」というアナウンス効果が期待でき、組織の威信を高められるからだ。
◆G7が「二十一世紀の国際秩序」を守る
話を本筋に戻すと、「今までの政治体制を変える」ということは、アメリカの対外政策に関して「世界の警察官をやめたい(あるいは、やめるしかない)」という意思につながる。つまり、アメリカの一般大衆は「世界の警察官」に飽き飽きしている。その背景には「世界は大きく変わった。もう戦争はできない。戦争にならないなら、なぜ、アメリカが世界の警察官の役割を果たさなければいけないのか」という思いがある。それを強行突破しようというのがクリントンだから、民主党のクリントンと共和党のトランプが大統領選を争ったら、「世界の警察官」という役目からアメリカが降りるための選択肢はトランプになる。トランプは今までの政権と違うやり方で行くだろう。
いずれにしても、アメリカが「世界の警察官」をやめようとすれば、アメリカの国防体制は変わり、内戦や地域紛争が起こるにしても、世界的規模の戦争がない状態が定着する。戦争がない状態が定着したら、世界でデフレがいっそう進行する。
すでに回復できないまでのデフレになってしまっているが、人類が十九世紀に経験した二十年以上のデフレをはるかにしのぐ時代が出現するだろう。そこでは激しい国際競争が繰り広げられるが、産油国、新興国を含め、資源で稼ぐところはすべて後退を余儀なくされる。また、後述するように中国も崩壊への歩みを続ける。そのとき、国際秩序を維持する役割はG7が担い、アメリカはG7の「(みんなの中の一人)」として機能する。そういうG7への移行が伊勢志摩サミットで始まった。
ただし、今度のサミットで欠けているのは国防である。どこの国も防衛のトップを出していない。防衛のトップが出席して会合が開かれるようになれば、安全保障政策もG7で決定する。まだその第一歩を踏み出せていないが、必ずそちらへ動き出す。これにかなうところはない。そうなれば、アメリカは完全に「世界の警察官」をやめられる。
それから、新しいG7が進展すると、形式だけで意味がない国連安保理は存在意義を失う。当然、国連の改革も進めなければならなくなる。それができたら二十一世紀は本当に平和な時代が来る。
このように世界史的な意味で伊勢志摩サミットの開催はきわめて重要な転換点なのだが、日本のマスコミはテレビも新聞も、だれ一人、触れようとしない。(P17~P35)
(私のコメント)
長谷川慶太郎氏の本を読めば、はっきりとは書いていないがトランプが大統領に選ばれる事を想定して書いている。クリントンでは既成の政治家であり政治の変革は求められない。FBIの動きが注目されましたが、クリントンもFBIの直前の動きが選挙に大きく作用した事を述べている。
クリントン・スキャンダルについては、日本のマスコミはなぜか大きく報道しないのは米民主党びいきだからだろう。トランプの大統領当選を木村太郎氏は1年も前から断言していましたが、フジテレビのコメンテーターから外されてしまった。このように日本のマスコミは見えない言論統制が行われており、外務省や財務省に反するような事を言えばテレビに出られなくなる。
長谷川慶太郎氏も、以前はテレビ朝日のワイドショーに出ていたが、今はほとんどテレビで見る事は無い。このように本当のことを言うコメンテーターはテレビから排除されてしまって、タレントが政治経済のコメントを述べているような始末だ。
日本で本当の事が知りたければ、本を読むかネットで「株式日記」を見るしかない。株やFXなどをやっている人ならば、トランプが勝つと予想していれば空売りしていれば1日で1000円とれた。FBIが動けば大逆転もありうると書きましたが、クリントンが当選してもスキャンダルで短命大統領になる事が予想された。
このような時に、トランプ次期大統領は「世界の警察官」を辞める事を選挙でも述べていましたが、当然それに代わる組織が必要になる。国連の安全保障理事会はロシアや中国が入っているので機能しませんが、G7が安保理事会の代わりの機関になるとすれば、アメリカもやりやすくなるだろう。大きく見ればロシア中国包囲網が作れる。その中心にいるのが安倍総理だ。
安倍総理がそれほどの影響力を持つようになったのは、日本の銀行の金融力であり、世界で長期の金融余力のあるのは日本の銀行だけだ。その事はリーマンショックの頃も書きましたが、2008年のリーマンショックの後始末が欧米の銀行は出来ていない。日本の銀行も不良債権の処理で20年もかかりましたが、ドイツのドイチェバンク、フランスのBNPパリバ、イギリスのバークレイズなどは信用不安説がくすぶっている。
伊勢志摩サミットでも安倍総理はリーマンショック前の状況に似ていると述べましたが、ドイツのメルケルは必死になって否定した。それだけドイツ銀行が危ないからですが、欧米の銀行は90年代の日本の銀行と同じ状況に立たされている。しかし欧米の銀行には含み資産が無い。
オバマ大統領も以前は安倍総理との会談を避けていましたが、今では安倍総理との会談を避ければ、欧米の銀行や大企業は日本の銀行からの融資が得られなくなる事を覚悟しなければならない。ユーロ危機を救ったのも日本の銀行だ。中国や韓国の金融危機も日本の金融支援が無ければ救われないだろう。
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