TPP法案には意味がある トランプ氏と「ディール」で新たな貿易交渉でも有利に
ドナルド・トランプ氏の米大統領選当選で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は今後どうなるのだろうか。
トランプ氏は選挙中一貫してTPPに反対し続けた。その一方、同氏の周辺からは「TPPそのものに反対しているのではなく、米国にとって修正すべき点があり、そのためにあえて反対を声高に唱えているだけだ」とか、「多国間交渉がよくないので二国間交渉すべきだ」といった意見が出ている。
どちらも正しいのだろう。これがトランプ流の「ディール(取引)」である。まず方向性をぶち上げ、その後、具体策に落としていく。現実的なやり方であるが、リスクは「変節した」と言われかねないことだ。
これに対して、2つの見方がある。1つは政治的な観点から、TPPにあれほど反対したので、その御旗を下ろせない、というものだ。トランプ氏は、ミシガン州やウィスコンシン州などの中西部で民主党の基盤を崩したが、その背景には、民主党支持だった低所得階層の白人労働者の存在があったといわれている。その人たちの意見を無視できないからだ。
他方、トランプ氏はビジネスマンだったので、状況によって変幻自在であるから、君子豹変もありえる。政治経験のなさがかえって大胆な柔軟性をもたらすかもしれない。
どちらになるのかは実際に交渉してみなければわからない。
TPP関連法案の日本での国会議決で、与野党はもめた。山本有二農水相の失言も情けないが、民進党もどうかと思う。もともと、TPPは民進党の前身の民主党政権時代に交渉に入ったものだった。それなのに、TPP反対のトランプ氏が大統領になるから、TPP関連法案は意味がないとまで言った。国会審議では「米国の言いなりで食の安全が確保できない」というロジックだったが、今度は「米国の言いなりでTPPをやめろ」というのは、ご都合主義だ。米国ときちんと交渉するためには、筋を通さなければならない。
日本は、交渉結果について、政治的リスクを負って国会で議決し、約束を守る。その上で、トランプ氏に対して、TPPの成果を踏まえて従来とは違う貿易交渉をもちかければ、日本としても有利な立場になるはずだ。
安倍晋三首相は、早速今月17日にトランプ氏と会談する予定だ。TPPへの感触を肌で感じ取る目的もあるのではないか。
そして、日本は約束をしっかり守る国であることを強調するだろう。新しいアプローチでは、日米を中心とした自由主義経済が重要であることや、貿易圏と安全保障は緊密に連携しており、日米同盟がその基礎にあることも主張するだろう。
トランプ氏のこれまでの言動をみると、親ロシア、嫌中国である。安倍政権の外交政策とは意外に親和性があるように思う。
おそらく、安倍-トランプ会談では、大きな世界の安全保障の中での日米関係について理解を得ながら、自由貿易の枠組みが議論されることになろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
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