2015年11月22日日曜日

日本の軽自動車は規格としては1949年昭和24年)に戦後の経済成長の一助となる事を目指して成立した。当初から運転免許証も普通車、小型車とは区別され、時期や地域によっては、実地試験が免除となり、費用負担も少ない「軽限定免許」なる優遇措置が存在したが、当時のモータリゼーションの主力および市場の需要はもっぱらオート三輪オートバイに集中しており、軽四輪自動車の本格的な製造販売を手掛けるメーカーはなかなか出てこなかった。軽規格自体も1954年(昭和29年)までほぼ1年おきに改正・拡大を繰り返すような有様で、実際に実用的な規格として固まり、その存在が国民に認知されるようになるのは、通商産業省(現・経済産業省)の国民車構想週刊誌によってスクープされる1955年を待たねばならなかった。この時代までに軽四輪自動車の製造販売に挑戦した少数の零細メーカーはほとんどが商業的に失敗するか、資本の限界で製造の継続ができなくなるなどの理由で、ほどなく市場からの撤退を余儀なくされている。
1955年、鈴木自動車工業(現:スズキ)が「スズキ・スズライト」を発売、軽規格内でも国民車構想に充分に合致する本格四輪乗用車の製造が可能であることが証明されたが、販売価格は42万円と未だ価格面では庶民の手には届きにくいものであった。当時の平均月収は数万円程度[1]であり、庶民の足となりえる原動機付きの乗り物はホンダ・カブFに代表される自転車後付エンジン(広義のモペッド)か原動機付自転車、250cc程度までの小型オートバイ(軽二輪)、高くてもダイハツ・ミゼットに代表される販売価格20万円台の軽三輪自動車までが精々という時代背景であった。
その後1958年に「スバル・360」 が登場。先行車両をデザイン、性能、パッケージングなどあらゆる面で上回るものでありながら販売価格は40万円を切るものとなり、軽四輪自動車が国民に爆 発的に普及する原動力となった。スバル・360の成功はそれまでもっぱらオート三輪の製造に注力していたマツダ、ダイハツ、三菱などのメーカーの経営方針 を四輪中心に転換させる原動力ともなった。同時に各社とも貨物車の開発にも力を入れ、この過程で誕生した「軽トラック」や「軽ワンボックス」は日本の経済活動にとって欠かせないものとなった。またホープ自動車ホープスター・ON型4WDは改良発展で後にスズキ・ジムニーとなり、オフロード車としても成功を収めた。以降、業務用からレジャー用のバギーカーまでが出揃うほどの多様な車種展開を見せ、その発想は現在の車種にも受け継がれている。
世界各国の「サイクルカー」が姿を消していく中、日本の「軽自動車」は、本格的な自動車としての生き残りに成功した。その後、3度にわたって大幅な規格拡大があり、現在に至っている。1990年の660ccへの排気量拡大以降は、それまで多くの車種でオプション設定に留まっていたカーエアコンカーオーディオの標準装備化も進んでいき、1998年の現行規格登場後はエアバッグ衝突安全ボディーの実装、さらに2012年現在ではアイドリングストップ副変速機付きCVTバックモニターなどの装備も進み、さらに2012年、ダイハツがムーヴを皮切りに主力車種に投入したことからか2014年頃には各社とも衝突被害軽減ブレーキを主力乗用車種、更に2014年FMCのアルトに至ってはバンにまで設定するなどすぐ上のクラスと比較して急速に[2]ASV化が進んでいる。これらのように単なる「廉価な四輪車両」の地位に留まらない、登録車と遜色ない快適性や安全性を有するまでになってきている。
しかし、軽自動車の自動車としての確立と性能向上に従い、当初の優遇措置は次第に打ち切られていき、車検の義務化や重量税の課税など登録車と同様の課税や規制が掛けられるようになっていった。また、今日では世界でも類を見ない性能を誇る存在になりながらも、その成立過程と税制、市場の特殊性故に国外での販売実績・普及はほとんどないままであり、国内市場からはコンパクトカーとの競合での税制面の優遇における批判、海外市場からは「日本市場の閉鎖性と保護政策の象徴」として批判の対象となっている(クワドリシクルなど日本以外にも類例の規格はないわけではない)。ただし、海外向けには軽自動車のエンジンだけを800[注釈 4] - 1,300cc程度に拡大したものは多数あり、日本からの完成車輸出や現地でのノックダウン生産を経て、完全国産化を果たしてその国(地域)独自の商品へと進化したものもある。1990年代以降の日本国内仕様にもミラジーノ1000パジェロJr.ジムニーシエラなどがある、特に軽トラック軽ワンボックスバンはその実用性が評価され、海外でも広くその姿をみることができる。軽自動車を製造しているメーカー各社は低コストで車を作る技術を蓄積し、新興国での競争力強化につなげることを目指している。
ナンバープレートは、自家用・貸渡用・駐留軍は黄地に黒字、事業用は黒地に黄字の中板(330mm×165mm)である。ただし、1974年以前に製造された軽自動車は、自家用・貸渡用・駐留軍は白地に緑字、事業用は緑地に白字の小板(230mm×125mm)となる。このタイプでは、住所変更や所有者変更などで新規にナンバープレートを発行する場合でも従前どおりの小板が発行される。このため、21世紀になって登場したご当地ナンバーでもこのタイプのための小板が存在する。現在も小板が発行されている理由は車両の構造上中板が取り付けられないためであるが、1974年製造の一部車種(三菱・ミニキャブなど)はナンバープレートの取り付けスペースを中板対応にし、ナンバープレートを固定するナットを小板用と中板用の2組設置して小板・中板のいずれも取り付けられるようにしているものもあった。なお、小板は現在でも250cc以下の軽自動二輪車で用いられている。ナンバープレートは、映像作品や、趣味の面においての時代考証でも重要な用件となる。
登録車のような所有権の登録制度がないので、届出に際し印鑑証明は不要である。また登録車とは異なり、多くの自治体で保管場所証明を申請する義務がなく、車庫証明も不要である。現在は、おおむね人口10万人以上の東京都区部でナンバープレート交付後の届出が必要となっている[3]

軽二輪

軽二輪とは、125cc超250cc以下の自動二輪車のことである。この排気量帯の二輪車については、普通自動二輪車または検査対象外軽自動車を参照のこと。

成立までの経過

軽自動車の発展は、まだ日本の自動車普及率が高くなかった1950年代モータリゼーション推進と日本の道路事情に見合った車の開発をめざした「国民車」構想の延長にあると、従来言われてきた。しかし実際にはこの構想において成功した自動車メーカーは皆無であった。富士重工業における「スバル360」の開発は「軽自動車の枠で、普通乗用車と同じ能力を」という前提で開発されており、最初から国民車構想をさらに上回る企画であった。
また平均的日本人における成人男子の 体格が世界的に見て小柄であったことも、同車種が日本国内の市場に受け入れられた遠因に挙げられているが、当時のスバルやホンダの軽自動車がほぼエンジン のみを拡大して450 - 600ccとし、そのまま北米などに輸出され好評であったことから、欧米人の体格でも日本の軽自動車サイズで問題はなかった。
過去3度における大幅な規格拡大も、排気ガス抑制のための4サイクルエンジンへの移行促進(360cc→550cc)、高速道路網の拡張への対応やカーエアコンの普及による馬力荷重の悪化(550cc→旧660cc)、衝突安全性の確保(旧660cc→新660cc)などが主たる理由である。
スバル360と同時期に発表されたイギリスの「BMCミニ」は、エンジンこそ850ccであったが、室内容積は日本の軽自動車と同等であった。

軽自動車の特徴と用途

特徴

軽自動車の特徴は
  • 車両本体価格のほか、税金保険料などの維持費も安い
  • 車体が小さく取り回しが容易
  • 下取り価格が比較的高い(例外あり)
  • 燃費は、重量が元々軽いこともあり比較的良い(燃費上位の機種ではハイブリッドカーに匹敵するものもある)が、下記のエンジンへの制限があるため、高速走行時などでは極端に悪化する。
などである。
地方のスーパーマーケットと買い物客の軽自動車。特に地方では軽自動車は重要な交通手段である(愛媛県四国中央市旧土居町にて撮影)
道路が発達して渋滞が少ない、ロードサイド店舗が発達している、公共交通機関の便が悪いことなどから、自家用車の利便性が高い地方では、個人の通勤買物などの生活の足として、一世帯で複数台の自動車を所有することが一般的である。その際、コストを抑えるためにセカンドカー(一世帯で保有する2台目以降の車)以降に軽自動車を購入する例が多い。これらの使用者は、女性若者、あるいは高齢者などであり、軽自動車の中心的購買層でもある(詳細はJAMAレポートNo.107を参照)。
職業別においては、農林水産業建設業運送業な どで、軽トラックや軽ワゴン・バンを所有している例が多く、購入価格(イニシャルコスト)が低廉であることのほか、税金や維持費(ランニングコスト)も低 く、幅員の狭い道路を楽に往来できるというメリットもある。冬季間の積雪凍結路面を走行する際や未舗装の悪路走行する際に必要な4WDも設定されており、軽トラックではメーカーオプションで悪路走行用に副変速機LSDデフロックが設定されている車種や、セダン、ワゴン、オープンカー、しまいには4ドアハードトップのラインナップまで存在した。
都道府県別で見てみると、軽自動車の保有台数は全47都道府県で増加しているものの、東北地方太平洋沖地震東日本大震災)で大きな被害を受けた宮城県福島県(2014年までは岩手県も)および沖縄県の計3県以外では登録車の保有台数が減少しており、軽自動車に取って代わられている傾向が見られる[4]2015年(平成27年)3月末現在、「軽自動車の保有台数」の1位は愛知県、2位は福岡県、3位は埼玉県、4位は北海道、5位は大阪府となっており、保有台数上位は都市部で占められる[5]
一方、「全自動車に対する軽自動車の保有シェア」では、2008年(平成20年)3月末現在(全国平均:33.7%)において高知県が初めて全自動車の半数以上を軽自動車が占めたのを皮切りに、2015年(平成27年)3月末現在(全国平均:38.7%)ではいずれも西日本にある沖縄県(55.7%)、高知県(54.7%)、長崎県(54.7%)、和歌山県(53.2%)、島根県(52.7%)、鹿児島県(52.5%)、鳥取県(52.4%)、宮崎県(52.1%)、愛媛県(51.4%)、佐賀県(51.0%)の10県において全自動車の半数以上を軽自動車が占めるようになり、京都府・大阪府・兵庫県を除く近畿地方以西は全県40%以上となっている[5]。なお、東京都は全47都道府県の中で唯一、軽自動車に対する軽貨物車の比率が40%を超えており、軽ワンボックスバンと軽トラックが都民の生活を支えている[5]
都道府県別の軽自動車保有比率の変化
Ownership rate of K cars 2015.png Ownership rate of K cars 2008.png Ownership rate of K cars 1998.png
2015年(平成27年)3月末 2008年(平成20年)3月末 1998年(平成10年)3月末
都道府県別の2015年3月末の保有台数、保有比率[5]
2013年3月末の100世帯あたりの保有台数[6]
および、1998年3月末時点の保有比率[7]赤字は前年度より減少)
都道府県 全自動車
保有台数
(台)(A)
登録車
保有台数
(台)
軽自動車
保有台数
(台)(B)
軽自動車
保有比率
(%)(B/A)
100世帯あたり
軽自動車
保有台数
(台/100世帯)
1998年3月末
軽自動車
保有比率
(%)
全国 77,080,842 47,273,096 29,807,746 38.7 51.8 25.9
北海道 3,581,053 2,456,556 1,124,497 31.4 39.3 17.0
青森県 977,239 527,740 449,499 46.0 74.6 31.6
岩手県 991,677 539,617 452,060 45.6 84.9 31.9
宮城県 1,613,887 1,007,089 606,798 37.6 61.8 24.8
秋田県 798,804 428,747 370,057 46.3 84.5 34.3
山形県 908,226 498,738 409,488 45.1 98.2 34.6
福島県 1,584,888 937,931 646,957 40.8 82.1 29.0
茨城県 2,475,412 1,589,071 886,341 35.8 72.0 22.4
栃木県 1,634,979 1,056,447 578,532 35.4 69.8 22.9
群馬県 1,714,218 1,045,504 668,714 39.0 80.4 26.7
埼玉県 3,845,347 2,612,110 1,233,237 32.1 37.7 17.4
千葉県 3,435,482 2,345,704 1,089,778 31.7 38.4 18.6
東京都 3,938,122 3,160,166 777,956 19.8 11.3 11.5
神奈川県 3,688,675 2,772,338 916,337 24.8 21.0 13.6
新潟県 1,785,467 975,219 810,248 45.4 90.0 33.4
富山県 875,470 518,297 357,173 40.8 85.9 30.3
石川県 874,148 530,603 343,545 39.3 71.9 27.9
福井県 645,222 364,626 280,596 43.5 96.4 31.5
山梨県 715,143 398,526 316,617 44.3 90.0 31.2
長野県 1,823,220 971,006 852,214 46.7 98.0 34.4
岐阜県 1,624,845 975,411 649,434 40.0 81.1 26.7
静岡県 2,731,051 1,619,422 1,111,629 40.7 71.6 27.0
愛知県 4,933,377 3,377,217 1,556,160 31.5 49.0 19.3
三重県 1,451,373 822,865 628,508 43.3 80.9 31.6
滋賀県 980,427 539,730 440,697 44.9 78.3 32.9
京都府 1,268,948 774,077 494,871 39.0 41.2 25.5
大阪府 3,494,057 2,374,949 1,119,108 32.0 26.6 21.3
兵庫県 2,849,190 1,805,916 1,043,274 36.6

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