ベルリン三極委員会総会で感じた世界の変化
新たな秩序の模索と国際協調主義の重要性

  田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長]

ベルリンでの三極委員会総会に出席
世界の変化はいまだ過渡期にある
 3月15日より17日までベルリンで開催された三極委員会の第40回総会に出席した。三極委員会は、1973年にデービッド・ロックフェラー氏の提唱により開催が決まったもので、北米、欧州、日本の三地域の有識者が毎年会合し、時々の重要課題について議論し、地域間の理解を深めることを目的としていた。

 当時は世界第二の経済大国に台頭してきた日本を、「西側民主主義先進国の仲間」として遇し、冷戦下に求められた西側の結束を強化するこ とが最大の意味であったのだろう。日本が時に「異質」と言われながらも、戦後急速に国際社会の有力な一員となることができたのは、三極委員会などを通して 政治家、財界人、学者、官僚OBなどの有識者が、国際的な議論に馴染んでいったことも大きな要因である。

 そういう意味で、三極委員会は発足時の目的を見事に達成したということができよう。今回の総会では、国際社会が大きく変動し、東アジア からは日本だけではなくいくつかの諸国が参加するようになってはいるが、三極委員会の存在意義を今後どこに見出していくべきか、ということが中心課題と なった。

 私は三極委員会の中での議論を聞きながら、「世界の変化は大きくいまだ過渡期にある」という印象を強めざるを得なかった。世界は東西冷 戦、あるいは米国一極体制の時代から多極化し、時には無極化と言われる時代となっている。三極が代表する欧州、北米、東アジアの地域においても不安定さが 顕著に表れ、次のような課題を中心に議論が進む。
 ・欧州は債務危機を乗り越え、再統合に軌道を戻せるのだろうか。
 ・米国は内向きに転じ、積極的な対外政策は望めないのではないか。
 ・東アジアは中国の台頭と対外攻勢により、不安定化するのではないか。

 三極委員会の開催地は毎年3地域で輪番となり、今年は欧州地域ドイツで行われたこともあり、メルケル首相も登場して欧州をめぐる活発な議論が行われた。この半年で二度メルケル首相にお目にかかったが、会うたびに自信を増した発言となっているのは印象深かった。

欧州は債務危機を乗り越えられるか
存在感を増すドイツ
 欧州の中でドイツの経済力は他を圧倒し、ユーロ諸国の債務危機を乗り越える上でドイツの指導的立場は確立しつつある。ドイツ国内においては、「何故ドイツが、規律なく債務を垂れ流してきた南の国を救済するのか」という不満の声は大きい。

 しかしながら、貿易立国であるドイツのユーロ圏内での輸出は大きく、実は欧州統合から最も大きな利益を受けているのはドイツであり、冷静に考えてみれば、ドイツは問題国を救済せざるを得ない。

 したがって、ユーロ圏は今後財政面での規律を一層強化する形で、一定程度は一体性を維持していくこととなるのだろうが、一方において、強い欧州北部諸国と弱い南部諸国の二層のユーロ圏ということとなっていかざるを得ないだろう。

 また、英国がEUからの離脱について国民投票の実施を課題としており、欧州統合自体も新たな局面に来ている。1990年代に欧州統合が 勢いを増していったときに、英国のサッチャー首相は「英国が欧州統合に参加する大きな理由の1つはドイツとのバランスをとるためである」と述べていたが、 現在の英国国内にはEUへの参加に伴い、英国が徐々に主権を失うことに対する反感は強い

 もっとも米国や日本も含め、諸国にとって欧州から離脱した英国の重要性は大きく減じるであろうし、また、英国が離脱した欧州も影響力を 減じざるを得ない。さらに強いドイツが戦後の低姿勢を脱し、欧州で経済のみならず政治安保面でも主導権をとっていくことで欧州の安定性を保てるのかは、注 意深く見ていく必要があるのだろう。

 米国の将来についても、大きなクエスチョンマークがついている。現在の財政の壁をめぐる議論の背景には、オバマ政権の成立以来徐々に顕著になってきた米国社会の二極化現象がある。

 共和党右派と民主党左派、富裕者と貧困者、白人と非白人などの利害が複雑に絡み合い、米国社会は国内志向に転じている。確かに、ブッ シュ政権の米国が9.11の対テロ戦争に始まりイラク戦争などで疲弊した結果、オバマ政権につながったわけで、イラクやアフガンからの撤退、財政赤字削減 の一環としての国防費の大幅削減は、米国の対外姿勢がより積極的でなくなる兆候を示している。

 オバマ政権は「アジアへの回帰(pivot)」を掲げるが、これはアジアでの軍事的プレゼンスを大幅に増すことを意味するものでもなく、むしろアジアを重視する政治的メッセージと捉えるべきなのであろう。

世界の地政学を変え得る2つの事象
二国・地域間自由貿易交渉の促進とエネルギー革命
 米国がオバマ第二期政権でどのような対外姿勢をとっていくのか、必ずしも明確ではない中で、2つの事項が世界の地政学的趨勢を大きく変える可能性を有するに至っている。

 第一は、TPP及び米・EU自由貿易交渉の開始である。三極委員会の議論の中でも、本来世界が重視すべきWTOの新ラウンド交渉が進む可能性が消え、地域や2国間の自由貿易協定が進み出していることに対する強い危惧が語られたが、もはやこの趨勢は止められない。

 もし米・EUの自由貿易協定、日本も参加したTPP、そして日・EU経済連携協定が成立すれば、先進民主主義国を中心とする自由貿易の世界が再び世界経済の主導権を握る可能性が出てくる。

 また、昨今の自由貿易協定や経済連携協定は、伝統的なモノ、サービス貿易を超え、投資や知的所有権、安全基準などの広範なルールづくり の世界であり、経済的統合を一層進めるという意味合いを持っている。このような枠組みには現段階では参加できない中国、インド、ロシアなど、いわゆる新興 国との関係も大きく変ってくるだろう。

 さらに、エネルギー革命の地政学的意味合いも無視できない。米国はシェールガス革命により、世界最大の資源国としてエネルギー自給が可能になり、中東への石油輸入依存を大幅に減らすことができるのだろう。この結果、米国の経常赤字は大幅に改善される。

 また、シェールガス生産技術の保有を通じて、米国は他の地域との関係で強いテコを保有することもできるのだろう。欧州や日本との経済的 統合の促進やエネルギ―分野での復権は、米国の相対的な力を引き上げる効果を持つのだろう。その結果、中国が米国を経済力で追い越すのは時間の問題と捉え られている展望も、変わっていくのかもしれない。

中国の飛躍的な台頭と将来の不透明さ
アジアで求められる日本の存在感
 そして東アジア。三極委員会では、日本が政治的、経済的に国力を回復し、国際場裏での存在感も拡大してほしいという雰囲気が強かった。その最大の要因は、中国の飛躍的な台頭と将来の不透明さである。

 中国が、建設的な対外政策を可能にする政治システムを維持することができるのか。共産党政府の主要な意思決定の最大の要因は、国内統治 課題である。所得不均衡、汚職などの社会的不正、環境問題、少数民族問題などのハンドリングを間違えば、インターネット社会の中で大衆動員につながり、そ れが簡単に共産党統治の正統性の問題に行き着く。

 国内統治が上手くいかないときには、共産党政権が対外的な摩擦をつくり、求心力を高めるといったことも起こらないことではあるまい。そ の象徴的な事案が、尖閣問題ではあるまいか。すでに中国でもナショナリズムに直結する問題となっているが、はたして共産党政権は合理的なアプローチをとる ことができるのか。

 1973年に三極委員会が発足したときの問題意識は、敗戦国日本や西ドイツを西側の一員として遇し、先進民主主義国の結束を高めようということであった。冷戦が終了し、多極化時代と言われて久しく、現在世界は新しい秩序を求めて過渡期にある。

 今日の三極委員会には、アジア太平洋については日本を中心としつつも、韓国、豪州、東南アジアの民主主義国を含むだけではなく、中国や インドといった新興国も招かれている。今後の三極委員会は、中国やインドといった新興国の有識者が国際協調主義の重要性を認識する機会を提供するべきであ ると思う。

 また、新興国に限らず先進民主主義地域においても、ナショナリズムが高まり、世論迎合的な政権運営が目立ち出しており国際協調主義に乗っ取って政策を実現していくことの重要性を、語り続けていかねばならないと思う。DIAMONDonline2013.3.22
http://diamond.jp/articles/print/33633


【wiki】田中均
田中 均(たなか ひとし、1947年1月15日 - )は、日本の元外交官。公益財団法人日本国際交流センターシニア・フェロー、東京大学公共政策大学院特任教授、株式会社日本総合研究所国際戦略研究所理事長。

msn産経ニュース 「外交語る資格ない」首相、田中均氏をバッサリ 2013.6.12
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http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130612/plc13061222390015-n1.htm

日本国際交流センターシニアフェローといえば
「安倍の葬式はウチで出す」でおなじみ若宮啓文元朝日新聞主筆もそうだが

本当にろくなことしないな... 

参考
従軍慰安婦問題の黒幕