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【月刊正論】日韓関係の悪化を喜んでいるのは誰か? 西岡力
【月刊正論】
日韓関係の悪化を喜んでいるのは誰か? 西岡力
今年6月で日韓国交50年を迎えた。私事で恐縮だが、私は1977年大学3年次に1年間、韓国に留学した。留学準備期間を含めると私は、そのうち
約40年間、韓国と日韓関係を研究対象としてきたことになる。40年間、多くの尊敬できる韓国人と出会い、たくさんことを教えていただいた。私の研究はそ
れ抜きには成り立たなかった。
いま、日韓関係が悪化している。論者の中には最悪だという者さえいる。本稿で詳しく論じるように最悪ではないのだが、悪くなっていることは間違いない。
心配なのは韓国人の反日ではない。それは北朝鮮とそれにつながる左派勢力によって人工的に作られたものだから、声高に聞こえるが実質はそれほど強いものではない。韓国の反日は、ソウルの日本大使館前と国会とテレビ・新聞の中にしかない、少し極端だがそれが私の実感だ。
それに比べて、心配なのは日本人の嫌韓だ。韓国の反日の背後にある政治工作を見ず、その理不尽さをすべて韓国人の民族性・国民性に還元する議論の拡散を私 は心配し続けている。事柄を形づくる要素のうち、一番最近に起き、かつ一番影響力が大きい部分を見ないで議論すれば、事柄の全体像を正確に把握することが 出来ない。その結果、悪意を持って政治工作を行っている勢力だけが喜ぶことになる。
本稿では日韓両国民の感情的対立、特に最近の日本人の 嫌韓感情を作り出した主犯として、北朝鮮と韓国内左派勢力、そしてそれを煽る日本国内の反日日本人らが作り出した「韓国版自虐史観」あるいは「極左的民族 主義歴史観」を提示する。そして、その歴史観がいつからどの様な形で日韓関係を壊してきたのかを時系列を追って示していきたい。
70年代の韓国で出合った気高き民族主義
私の処女作『日韓誤解の深淵』(1992年亜紀書房刊)の前書きから話を始めたい。私は、日韓関係を心配して次のように書いた。読み返すと拙劣な文章で赤面するばかりだが、率直に思いを綴ったことだけは確かだ。
《1977年、当時大学3年生だった私は韓国の延世大学に交換留学生として留学した。在日朝鮮人差別問題のサークルの会員だった私は、日本人の一人として韓国の人々に過去を深く謝罪したいという気持ちで金浦空港に降り立った。
いま、日韓関係が悪化している。論者の中には最悪だという者さえいる。本稿で詳しく論じるように最悪ではないのだが、悪くなっていることは間違いない。
心配なのは韓国人の反日ではない。それは北朝鮮とそれにつながる左派勢力によって人工的に作られたものだから、声高に聞こえるが実質はそれほど強いものではない。韓国の反日は、ソウルの日本大使館前と国会とテレビ・新聞の中にしかない、少し極端だがそれが私の実感だ。
それに比べて、心配なのは日本人の嫌韓だ。韓国の反日の背後にある政治工作を見ず、その理不尽さをすべて韓国人の民族性・国民性に還元する議論の拡散を私 は心配し続けている。事柄を形づくる要素のうち、一番最近に起き、かつ一番影響力が大きい部分を見ないで議論すれば、事柄の全体像を正確に把握することが 出来ない。その結果、悪意を持って政治工作を行っている勢力だけが喜ぶことになる。
本稿では日韓両国民の感情的対立、特に最近の日本人の 嫌韓感情を作り出した主犯として、北朝鮮と韓国内左派勢力、そしてそれを煽る日本国内の反日日本人らが作り出した「韓国版自虐史観」あるいは「極左的民族 主義歴史観」を提示する。そして、その歴史観がいつからどの様な形で日韓関係を壊してきたのかを時系列を追って示していきたい。
70年代の韓国で出合った気高き民族主義
私の処女作『日韓誤解の深淵』(1992年亜紀書房刊)の前書きから話を始めたい。私は、日韓関係を心配して次のように書いた。読み返すと拙劣な文章で赤面するばかりだが、率直に思いを綴ったことだけは確かだ。
《1977年、当時大学3年生だった私は韓国の延世大学に交換留学生として留学した。在日朝鮮人差別問題のサークルの会員だった私は、日本人の一人として韓国の人々に過去を深く謝罪したいという気持ちで金浦空港に降り立った。
私は彼の論理の明快さと自信に圧倒された。私が交換留学生としてソウルで暮らした77年から78年にかけて、日本の安易な謝罪を拒否し自民族の弱さを直視してそれを自分たちの努力によって補おうという気高き民族主義に出合うことが多かった。
78年3月1日、3・1独立運動記念日でソウル市内の至る所に韓国の国旗である太極旗が掲揚されていた。私は韓国人の友人P君と大学街を歩いていた。一人 の幼稚園生くらいに見える男の子が門柱から垂れ下がっていた太極旗を棒でたたいて遊んでいた。それを見たP君が大きな声で「国旗をないがしろにしたらだめ だ」と叱りつけた。
そして、私の方を向いて「お前の家には日の丸があるか。日本ではいつ国旗を飾るのか」と聞いてきた。うちには国旗がな い。また、日本では公立小学校や中学校の卒業式に日の丸を掲げることを反対する声が強い等と説明すると、P君は「日本人は愛国心がないな。先日の新聞を見 ると日本の若者の過半数が戦争になったら逃げると答えていた。俺はもし自衛隊が竹島を取りに来たら銃をとって戦うぞ。お前も日本人なら愛国心を持って日本 のために戦え」とまじめな顔で言われたことを今も鮮明に覚えている。相手国の民族主義をも尊重する健全な民族主義、愛国心を、私は韓国で学んだ。
このような誇り高い民族主義は、1965年日韓国交正常化を推進した朴正煕大統領が持っていたものだ。朴正煕大統領の演説からいくつかの名言を紹介 しよう。まず、朴正煕大統領の率直な反日感情とそれにもかかわらず「自由と繁栄のための賢明と勇気」を持って決断を下すと語った1965年5月18日、米 国ワシントンDCのナショナル記者クラブでの「自由と平和のための賢明と勇気」演説からだ(『朴正煕選集・主要演説集』鹿島研究所出版会)。
《韓日会談が14年間も遅延してきたことは、みなさんよくご存じのことと思います。それには、それだけの理由があるのでありまして、外交史上いかなる国際関係にも、類例のない幾多の難関が横たわっているのであります。
周知のとおり、いま韓国には、韓日問題について、極端論をふくむありとあらゆる見解が横行しております。もしみなさんがわたくしに『日本について…』と質 問されれば、わたくしはためらうことなくわたくしの胸に鬱積している反日感情を烈しく吐露することでありましょう。またみなさんがわたくしに『親日か』、 『反日か』ときかれるならば、わたくしの率直な感情から言下に『反日だ』と答えることでありましょう。これはいやしくも韓国人であれば、誰でも同じことで あります。四十年にわたる植民統治の収奪、ことに太平洋戦争で数十万の韓国人をいけにえにした日本は、永久に忘れることのできない怨恨を韓国人に抱かしめ ているのであります。
それにもかかわらず、そしてこの不幸な背景と難関をのりこえて、韓日国交正常化を促進せねばならない韓国の意志にた いして、みなさんの深いご理解を期待するものであります。われわれは、より遠い将来のために、より大きな自由のために、より高い次元の自由陣営の結束のた めに、過去の感情に執着することなく、大局的見地において賢明な決断をくだしたいと考えるのであります》
次に紹介するのは1965年6月23日、韓日条約に関する韓国国民への特別談話からだ。
《去る数十年間、いや数百年間われわれは日本と深い怨恨のなかに生きてきました。彼等はわれわれの独立を抹殺しましたし、彼等はわれわれの父母兄弟 を殺傷しました。そして彼等はわれわれの財産を搾取しました。過去だけに思いをいたらすならば彼等に対するわれわれの骨にしみた感情はどの面より見ても不 倶戴天といわねばなりません。しかし、国民の皆さん! それだからといってわれわれはこの酷薄な国際社会の競争の中で過去の感情にのみ執着していることは 出来ません。昨日の怨敵とはいえどもわれわれの今日と明日のために必要とあれば彼等とも手をとらねばならないことが国利民福を図る賢明な処置ではないで しょうか。(略)
諸問題がわれわれの希望と主張の通り解決されたものではありません。しかし、私が自信を持っていえますことはわれわれが 処しているところの諸般与件と先進諸国の外交慣例から照らしてわれわれの国家利益を確保することにおいて最善を尽くしたという事実であります。外交とは相 手のあることであり、また一方的強要を意味することではありません。それは道理と条理を図り相互間に納得がいってはじめて妥結に至るのであります。(略)
天は自ら助ける者を助けるのであります。応当な努力を払わずにただで何かが出来るだろうとか、または何かが生まれるであろうとかという考えは自信力を完全に喪失した卑屈な思考方式であります。
今一部国民の中に韓日国交正常化が実現すればわれわれはまたもや日本の侵略を受けると主張する人々がありますが、このような劣等意識こそ捨てねばならない と同時にこれと反対に国交正常化が行われればすぐわれわれが大きな得をするという浅薄な考えはわれわれに絶対禁物であります。従って一言でいって韓日国交 正常化がこれからわれわれによい結果をもたらすか、または不幸な結果をもたらすかということの鍵はわれわれの主体意識がどの程度に正しいか、われわれの覚 悟がどの程度固いかということにかかっているのであります》
日韓で真逆だった国交への反対理由
朴正煕大統領が進めた日韓国交正常化交渉に対して、韓国内では激しい反対運動が起きた。私は修士論文のため、韓国の反日の論理を調べたが、その一環として当時の反対論をかなり集めて分析した(拙稿「戦後韓国知識人の日本認識」、川村湊・鄭大均編『韓国という鏡』収録)。
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