2016年11月13日日曜日

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成28年(2016)11月14日(月曜日)
         通算第5087号 
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 欧州のパンダハガー(独仏英)が中国警戒に急傾斜
  ハイテク企業の買収され放題をこのまま放置してよいのか
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 英国政府筋はチャイナバッシングの開始を示唆している。
 欧州はこれまでパンダハガーとして、やみくもに中国とのビジネスを拡大してきた。そのためにもAIIBにも率先して加盟した。

 しかし買収されやすく、他方で欧州企業の中国企業買収には高い壁がある。見えない条件があって、うまく行かないという不満が拡がっていた。
 ロンドンの豪華住宅地やマンションの不動産価格は中国の爆買いによってつり上がり、庶民から不満が突出し始めた。

 中国と異常なほどとの「蜜月」を享受してきたドイツ政府も、EU加盟国に「不公平な中国からの投資を警戒するよう」に呼びかけた。
EU全域には中国の企業買収などの過激な投資進出に不快感が拡がっていたが、中国贔屓と見られたドイツでも、とうとう中国への堪忍袋の緒が切れた。メルケルの中国傾斜路線に黄信号が灯ったのだ。

 直接の理由は中国の国家安全保障に直結するハイテク技術やロボット企業を片っ端から買収し始めたことへの不安からである。

 シグマ・ガブリエル独副首相は中国と香港を五日間に亘って訪問したのち、「EUは中国のIT企業や最先端技術の企業買収を許可してきたが、われわれEUのメンバーが中国の企業や思案買収は対等ではなく不公平である」と不満をぶち挙げた。「中国の通商関係を切る意思はさらさらないが」としてミカエル・クラウス駐中国独大使も発言を補強する。
 
発端は中国福建省の投資ファンド「福建芯片投資集団」という謎の集団が、独企業「アイクストロン」の買収案件に、一度は許可したもののドイツ政府は「再審査が必要だ」として10月24日にストップをかけた。中国はすぐさま抗議した。
高性能のITチップ製造するアイクストロン社を中国が6億7000万ユーロで敵対的買収をかけてことで懸念の声に火を付けた。

すでにドイツの産業ロボット企業クーカは中国の美的集団(家電大手)に45億ユーロで買収されてしまった。(日本のファナックや日電、川重、マザックなどロボット企業は要注意である)。
中国の狙いは説明の必要がないほどに明らかで、軍事目的であり、軍事ロボットの生産技術とそのノウハウ取得が隠れた目標である。


▼中国のハイテク企業買収の最終目的は軍事技術の取得にほかならない。

一方で中国は六中全会であらたに「サイバーセキュリティ法案」を可決成立させたが、これは事実上、EU諸国ならびに日米のIT企業が中国で展開するに当たって、機密とされる暗合を開示しない限り、中国でのビジネス展開が出来ないことへの焦り、怒りでもある。

もっとも積極的な対中進出をドイツとともにしてきたフランスも、こうした技術保護主義が台頭してきた。
ポルトガルやギリシアはむしろ積極的に中国の直接投資を歓迎しているのも、国家安全保障に直結する買収案件がほかの国に比べて少ないからである。

史上空前の440億ドル(4兆5000億円)でスイスの農業企業シンジェンタを中国が買収した案件も、審査と諸手続が円滑化しておらず、2016年中の成立が困難となった(フィナンシャルタイムズ、10月27日)。

すでに米国は中国の華為技術を中興通訊のコンピュータ、付帯設備などの使用を禁止している。連邦政府ならびに公立機関に通達を出し、スパイウィルスが組み込まれている恐れがあるとして購入、使用を禁止したのである。
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 読者の声 どくしゃのこえ READERS‘ OPINIONS 読者之声
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(読者の声1)アメリカ大統領選挙でのトランプ候補の勝利、アメリカの白人がついに目覚めたのかと感慨深いものがあります。
多文化共生・フェミニズム・同性婚など家族制度の破壊と宗教の軽視・否定、さらには国民国家をさも時代遅れの遺物であるかのように扱う左翼マスコミに世界中で「No!」が突きつけられているのでしょう。
 キリスト教国家だったアメリカで「メリー・クリスマス」が他宗教に対する配慮にかけると非難されるとか、議長をあらわす「チェアマン」が「チェアパーソン」に言い換えられるなど、アメリカはどうなっているのかと疑問に思いながら数十年、いつのまにか欧州や日本も同様の流れに傾いていました。
 国境をなくし人の出入りを自由にするというユダヤ的発想は欧州ではEUとして実現し
ましたが、宗教的異分子のイスラム教徒の激増で、もはやEUは破綻の危機にあります。
世界中を更地にして収奪するグローバリズムの終焉なのでしょう。ユダヤ人の歴史を見ると、寄生する国に対し財力で政権中枢にくい込み、次に特権を要求し、最後は危険視され追い出されることの繰り返し。つねにやり過ぎてしまう。
 雑誌「正論」に連載されていたものを加筆・再構成した福井義高氏の著書『日本人が知
らない最先端の「世界史」 祥伝社』にこんなくだりがあります。

『あるフランスの政治家は、かつてこう語った。
黄色いフランス人、黒いフランス人、褐色のフランス人がいれば、それは素晴らしいことだ。その存在は。フランスがすべての人種に開かれ、普遍的使命を持つことを示す。ただし、その数がほんの少数(petite minorite:アクサン記号は省略)にすぎない場合に限られる。さもなければ、フランスはもうフランスでなくなる。我々は何にも増して白色人種の、ギリシャ・ラテン文化の、そしてキリスト教の欧州の民なのだ。』

これはシャルル・ド・ゴールの言葉だという。1960年代は国民国家という概念が当たり
前、アメリカでは黒人の公民権運動が盛んな時代です。
現代のフランスでまさかイスラム教徒がこれほど増えているとは墓場のド・ゴールも思ってもいなかったでしょう。
 日本は60年安保騒動が終わって高度経済成長へ。憲法改正は棚上げにしてアメリカの属国でも経済が繁栄すればいいだろうと浮かれていたさなか、三島の自決が1970年、それ
から半世紀近くたちました。
日露戦争勝利から大東亜戦争敗戦までちょうど40年、ずいぶん短かったのですね。それを考えると戦後70年など若い人にとっては昔話でしかありません。1980年(昭和55年)当時でも、日本とアメリカが戦争したことを知らない若者はたくさんいました。
 
筑波大学教授の古田博司氏によると、筑波大学の学生でも日本とアメリカが戦争したことを知らない、
それどころか「シベリア抑留」をシベリアで発見された新種の翼竜だと思った学生がいる。第二次世界大戦、ということは、第一次があったんですかって、そういう質問が学生から出てくる。アリストテレスって、「アリス」と「テレス」ですかって学生に聞かれて、今年はもうゼミ生を取らないって怒っている先生もいた(笑)。と笑い話のようなことを書いている。

 英国のEU離脱、フランスでのルペンの躍進、ドイツで「帰ってきたヒトラー」が出版され映画化までされたこと、すべてがグローバリズムに対する反発です。
 1868年(慶応4年、明治元年)から70年、1937年(昭和12年)が支那事変の始まりでした。
その後の大陸での泥沼から日本の敗戦まで、日本が世界の一等国になったと慢心した報いかもしれません。前記、福井義高氏の著書にこんなくだりがあります。

『スターリンはさらに1939年7月9日、蒋介石にこう語った。
今まで二年続いた中国との勝てない戦争の結果、日本はバランスを失い、神経が錯乱し、調子が狂って、英国を攻撃し、ソ連を攻撃し、モンゴル人民共和国を攻撃している。この挙動に理由などない。これは日本の弱さを暴露している。
こうした行動は、他のすべての国を一致して日本に敵対させる。』
 昭和初期の日本は、明治維新以来、欧米に追いつき追い越せで無理を重ね、国として神経衰弱気味だったことが他国からはよく見えていたのでしょう。
帝国主義の時代とはいえ、日清・日露・第一次世界大戦とほぼ十年おきの勝ち戦、第二次大戦では占領地での日本兵・憲兵によるビンタが現地住民の反発を招いたことがいやほど出てきます。

今の中国がGDP世界二位の大国だ、と世界中で傲慢な振舞いをして顰蹙をかっていることを笑ってばかりもいられません。1980年代のバブル景気で、日本はもう欧米から学ぶことはないとか、アメリカの不動産を買い漁っていたことが二重写しになります。
トランプ大統領の誕生を機に、在日米軍基地の縮小と自衛隊の増強、さらには憲法改正までできれば安倍総理は戦後最高の総理として歴史に名を残すことでしょう。
   (PB生、千葉)



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(読者の声2)現在日本在住の脱北者、木下公勝氏の著書「北の喜怒哀楽」が、11月16日発売されます。アマゾンなどでも買えますので、ぜひご一読ください。木下氏が統一日報紙に以前数年間連載していた現状をまとめ、加筆修正したものです。
http://miura.trycomp.net/?p=3996
   (三浦生)



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(読者の声3)トランプ大統領への要請書: 米国を立て直し、新しき世界秩序を主宰せよ
●「日米露三国同盟」を基軸に、中国とイスラム過激派の牙を抜き、大義に基づく新しき世界秩序の主宰者たれ
●現行TPP条約離脱後、国際資本の恣意性を解毒し、真に日米両国民等にとりWinWinとなるものへと組み替えよ
 ●格差問題解決に向け、国民各層が活力に満ちそれぞれ所を得るような、社会構造の成功モデルを構築せよ

◆新三国同盟◆
11月8日に行われた米大統領選で、トランプがヒラリーを降し勝利した。
筆者は、8月のトランプのイラク戦没者家族への過剰反応以降、大統領選の勝敗確率を四分六でヒラリーの勝ちと見ていたので、予想を外した。
しかし筆者は同時に、トランプの選挙スローガンを織り込んでボブ・ディランの「風に吹かれて」の替え歌を作り、米国へ向けTwitterで拡散を試みてディランファンの顰蹙を買うなど、日本からささやかなトランプ応援活動をしていたこともあり、今回の勝利を祝福したい。
さて、トランプは、先ず選挙期間中に唱えていた経済政策を急進的独断的には進めない旨のメッセージを出して、マーケットの混乱を鎮めなければならない。
そして次に、直ぐにでも始めなければならない大仕事が待っている。
手始めは、トランプ自身が就任式を待たずに直ちにプーチンと会談すると語っていたように、シリア・IS問題解決に向け米露の関係正常化に動かなければならない。
オバマの任期が残るうちに、政権と軍部内の「冒険主義勢力」(ネオコン)がシリアを舞台にロシアと戦争を始めないために、これは喫緊の課題だ。
この冒険主義勢力の基本戦略は、ビジネス界と組んで所謂軍産複合体を形成し、中東に介入しロシアと代理戦争、進んでは直接衝突を起こす一方、中国とは表面上対立姿勢を示しつつも譲歩も止むを得ないとするものとみられる。
その狙いはよく解らないが、中東に覇権を確立するとともに火種を絶やさぬようにし戦争経済によりビジネスとしての実を取り、中国のマーケットは当面確保するというのが複合体の集合意思のようだ。
スターリン時代のポーランド亡命貴族の家系で、ロシアに消せない恨みを持つ米国外交の重鎮ズビグニュー・ブレジンスキーがこの戦略の思想的主柱となっている。

そして、これにより中国とロシアを組ませる結果を招いており、やがて米国は太平洋の西半分を失うだけに止まらず、中国による世界覇権とイスラム過激派による混乱の拡大を許すことになるだろう。
米国は、この倒錯した自国が損をするのみならず独裁国家による世界覇権を導く愚策を捨て、中露の間に楔を打ち込み、進んでは「日米露三国同盟」を基軸にイスラムから過激派を一掃し穏健化して取り込み、中国包囲網を完成させその牙を抜く正しい戦略を採るべきであり、この大義を伴う新しい世界秩序の主宰者とならねばならない。
なお、これは軍費ファイナンス上も合理的選択である。
今、アメリカ・ファースト、米国第一主義を唱えるトランプの内向き志向が、世界に心配されている。
相対的に衰退しつつあるとは言え、超大国である米国が単に世界の警察官を辞めれば、その真空を埋めるのは上述したように中国による世界覇権となる。
米国の「内向き」志向を否定し「外向き」志向を主張する所謂外交専門家が日米問わず多くいる。
しかし例えば国際政治学者の藤原帰一氏等は、不思議に「外向き」の内容と質を問わない。
中東でのイラク戦争を始め、悪事または間抜けぶりを繰り返してきたような、「外向き」志向は下の下である。
米国は、仕切り直して大義を伴う新しい世界秩序の主宰者として、王道を歩むべきである。
なお、トランプは日本に米軍駐留経費負担の増額を迫っている。
現在、日本は米軍駐留経費の7割を負担しており、かつこの駐留は米軍にとってもメリットのあるものだ。
日本は、このことを主張しつつ、これを契機に自主防衛にシフトして行くべきなのは言うまでもない。
しかし筆者は、トランプは更なる要求を突き付けてくる可能性が高いと見る。
それは、日本が現在負担していない費用、具体的には「核の傘代」だ。
日本は、核のボタンを握らせてもらう権利、所謂「レンタル核」「核シェアリング」と引き換えに傘代を幾らに設定するのかの交渉をする覚悟を決めておく必要があるだろう。

◆TPPを解毒せよ◆

大凡、甲論乙駁の厄介な問題には、3つの顔(機能)がありそれが絡み合っているから容易に正解に辿りつけない。
TPPはその典型的なケースで、(1)自由貿易の理想、(2)中国包囲網、(3)国際資本(グローバル企業)による各国民からの収奪、の3つの顔がある。
このうち(1)と(2)は、少なくとも基本的に見れば、日米両国民にとってメリットとなるが、(3)は一般国民からの収奪であるとともに、課税回避により国家についても利益がなく、一部エリート・富裕層のみの利益となり、社会格差により分断を招いている。
具体的には、一度規制を緩めると二度と戻せなくなる「ラチェット規定」、外国企業が規制により不利益を受けたと考えた場合に相手国家を損害賠償請求で国際機関に訴え一発勝負で判決が出る「ISDS条項」、その他一般国民に利益のない荒業のカラクリを外す必要がある。
移民の制限は、尊重されるべき国家主権である。
どんな構造とするか、またリアルなものかバーチャルなものか等、コストパフォーマンスと費用負担を考える必要はあるが、メキシコとの国境に壁を作るのは正しく国家主権の発露である。
しかし、保護貿易も基本的には国家主権ではあるが、食料、健康等の生存に直接かかわる特定分野以外では、保護貿易を強化するのはトータルに見れば長期的な国益に適わないだろう。
貿易は不動産業に比べて優れてゼロサムゲームではなく、保護貿易を強化すれば、米国のGDPは縮小してしまう可能性が高い。
加えて、米国が保護貿易強化に走れば、その隙間を縫って中国が各種自由貿易協定で各国を取り込むことなる。
米国に雇用を呼び戻し、国民を喰わせ痛みを和らげるための短期的時限的方便としてはあり得るが、トランプは保護貿易に力を入れるべきではなく、上述したようにTPPから国際資本、グローバル企業の恣意性を解毒し、真に日米両国民等にとりWinWinとなるものへと組み替える方向へ進むべきだ。
その観点でなら、トランプの米国と日本は協調できる。

◆成功モデルを構築せよ◆

黒人や少数民族を優先する「アファーマティヴ・アクション」は取り敢えず置くとして、米国社会は基本的に自由競争に基づく実力社会でありそれが活力となってきた。
しかし、敗者が事実上復活するのが不可能な場合、特に世代を跨いでそれが不可能な場合は、社会の分断を加速度的に進めることとなってしまう。
筆者は、野球には左程詳しくないのだが、米大リーグでは、ドラフトやトレード、その他の制度が、有力チームが金とブランド力で極端に強くなり過ぎないように精緻に工夫されていると聞く。
リーグの中で加速度的に戦力を累積するチームがあれば、興行としてのゲームが成立しなくなる。
大学の学費ローンで生活費も加えれば何千万円かの借金を抱えなければならないのでは、親の財力で人生が決まってしまうことが多く、米国民の分断が止まらない。
バーニー・サンダースが唱えたような授業料無料は行き過ぎとしても、4年制大学に於ける授業料合計で数百万円、場合によっては数十万円以下に抑えることは必要だろう。
格差問題には、既得権への切込みが必要である。
移民にしてみれば、米国籍こそが既得権と映るかも知れない。低所得層にとってみれば、グローバル企業こそが既得権と映る。
IT技術を応用した新興企業サービスにしてみれば、規制に守られた既存の3K仕事・サービス業従事者こそ既得権と映る。格差問題解決には、これら既得権の整理、即ち良い(妥当な)既得権、悪い既得権の腑分けが必要である。
その上でそれらを、社会保障や教育制度の社会制度や前述の通商政策と組み合わせて、国民が活力に満ち機能する仕組みを作り上げなければならない。
振り返って日本では、中途半端に斑模様で終身雇用制が壊れており、始末が悪い。安倍政権は現在、「同一労働同一賃金」を始めとする働き方改革をしようとしている。
本来は、「社会保険と働き方の一体改革」としてダイナミックに社会構造を変革しなければ効果は望めないが、その方向だけは正しい。
米国では「同一労働同一賃金」は既に基本的に実現されており、なお突き当たる問題は、ある部分日本の先を行く。
AI(人工知能)等、先端技術の進歩により、それにより経済格差はさらに拡大する。
日米に限らず、今後先進国が目指すべきものは「ナショナル・ミニマムを伴う自律社会」であろう。

格差問題解決に向け、国民各層が活力に満ちそれぞれ所を得るような、社会構造の成功モデルを構築することは、試行錯誤を伴う壮大な社会実験となる。
日米事情は異なる部分はあるが、共に手を携えて解決策をリードして行かなければならない。
以上、拙文にて述べて来たように、米国の内政を立て直し、加えて世界に向けては仕切り直した新しい秩序の主宰者として大義を示すべきこと。
「米国を再び偉大な国にする」とは、つまりそういうことだろう。
(佐藤鴻全)

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