2015年5月30日土曜日

週刊スモールトーク (第117話) 世界恐慌Ⅰ~1929~

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世界恐慌Ⅰ~1929~
■ビッグスリーショック
 天空を真っ二つに裂き、地上に落下する巨大隕石を目撃したら、10分後に何が起こるか?地球の大気をかすめただけか、ただの妄想なら、大したことはない。世界は今までどおりだ。だがもし、地球に衝突したら、地球最後の日になるかもしれない。10分後には、見たこともない異形の世界 ・・・ 我々は今、そんな状況に立たされているのかもしれない。
 2008年12月11日、アメリカ自動車大手ビッグスリーの救済法案が事実上廃案に なった。3社の経営状態は最悪で、中でもGM、クライスラーは、1ヶ月後には資金がショートするという。今後、新たな法律を必要としない金融安定化法に基 づく支援が検討されている(2008年12月13日)。さらに、FRB(アメリカ連邦準備理事会)の特別融資枠を使う可能性もある。
 今回のビッグスリーショックで、アメリカの株価は激しい値動きをみせた。廃案の発表後、急落、そして、金融安定化法による支援が発表されると、急上昇。この事実をとっても、アメリカがどれほど混乱しているかがわかる。こんな発表で株価が戻ること自体おかしいのだ。アメリカの株はもっと下がる。
 今回のビッグスリー救済法案は、下院は通過したものの、上院で廃案となった。その間、アメリカ国内は議論百出。破綻寸前のビッグスリーを国が救うべきか否か?
「一企業の経営の失敗を、国民の税金で尻ぬぐいするのは間違っている」
「ビッグスリーが破綻すれば、失業者が増え、結局、アメリカが痛む」
 だが、この議論は初めが間違っている。ビッグスリーは、破綻寸前ではなく、すでに破綻しているのだ。脈の絶えた身体 に、投薬したり、外科手術を施す医者がいるだろうか?ビッグスリー問題の核心は、資金繰りにあるのではない。もし、そうなら、公的資金を投入すれば問題は 解決する。だが、問題の本質は、
「売れる自動車が作れない」
にある。歌えない歌手、料理のできないコックに、おカネを払う者などいない。
 もし、地球上で、自動車メーカーがビッグスリーだけなら、よみがえる可能性はある。ところが、自動車メーカーは世界 中に山ほどある。しかも、自動車業界は、資源に負担をかけない小型車、電気自動車へシフトしつつある。ビッグスリーは、ガソリン自動車だけでなく、この世 界でも競争力がないのだ。相撲で一世風靡した横綱が、騎手に挑戦するからカネを貸してくれ、と言っているようなものである。ということで、
ビッグスリーはもう死んでいる
 先のビッグスリーの論議には、もう一つ間違いがある。ビッグスリーが救済されようがされまいが、大量失業は避けられないこ とだ。万一、救済されたとしても、国民の税金を使った手前、会社には痛みがともなう。大リストラ、給与の減額、福利厚生のカット、おそらく、破産法の適用 を受けるのと大差はないだろう。もちろん、下請会社も同様だ。食物連鎖の頂点に立つ企業が倒れれば、ピラミッドそのものが崩壊する。つまり、
「大量失業を避けるために、ビッグスリーを救済する」
は間違っている。
■信用危機(クレジット クランチ)
 サブプライムローン問題、リーマン・ブラザーズ破綻、AIG危機を通して、世界は薄氷の上に立っていることを思い知らされた。
「みんな1ドルだと信用しているから1ドルなのであって、じつはタダの紙切れ」
言葉をかえれば、金融は信用だけで成り立っている。
 ここで、問題を整理しよう。個々は複雑だが、全体はいたってシンプルだ。身なりのいいセールスマンが、「100円+50円」と書かれた紙切れを売りさばいていた。曰く、
「この証書を100円で購入すると、1年後には150円になりますよ」
「集めたカネで宝くじを買って、それで支払うつもりです」
「大丈夫かって?」
「ご心配無用。保険をかけてありますから」
「宝くじにはずれても、保険会社が払ってくれますよ
 こうして、セールスマンはこの紙切れを、世界中に売りさばいたが、運悪く?宝くじははずれてしまった。ところが、あ てにしていた保険会社は、額が多すぎて払えないという。金融の最後の砦が崩壊したわけだ。これが、2008年9月に起こったAIG 危機である。信用を揺るがすという点では、銀行や証券会社の破綻の比ではない。リーマン・ブラザーズを見捨てたアメリカ政府が、AIGを救ったのは、この ような事情による。世界が地獄をかいま見た瞬間だった。
 さらに問題を複雑にしたのは、「100円+50円」証書を元に、もっと手の込んだインチキ証書を作り、転売した者がいたことだ。つまり、まだ露見していない「100円+50円」証書が潜んでいることになる。誰がどれだけ損しているか誰も分からない。信用不安が一気に噴出した理由はここにある。
■信用危機の原因
 今回の金融危機で、最も損害をこうむったのは、カジノ金融の権化「ヘッジファンド」だろう。ヘッジファンドとは、金融機関や富裕層から集めたカネで、株 式、債権、通貨、商品先物、インチキ証書を売買して利益を得ている組織である。おカネを貸して気長に利息をとるわけでも、ベンチャー企業に投資して夢を追 うわけでもない。言ってしまえば、丁半バクチ。値が上がるとみれば買い、上がれば売る。値が下がるとみれば、先に売って(カラ売り)、下がったときに買う。ただの「さや取り」。
 2008年9、10月だけで、ヘッジファンドの運用資産は、20兆円も吹き飛んだという。運用損失と顧客の解約が原 因だ。結果、ヘッジファンドは現金を確保するため、投資先から資産を回収することを迫られた。期日が迫った支払いや、解約する顧客への返金、社員の給与 を、「100円+50円」インチキ証書で払うわけにはいかない。このパニック的換金により、商品先物市場や株式市場から、一斉に資金が引き上げられ、原油や株が大暴落したのである。だが、これで終わったわけではない。
 換金したものの、ドルは危ないのでユーロへ、ユーロも不安になり、今は円が買われている。驚異的なスピードで円高が 進んでいるのは、そのためである。このまま円高が進めば、日本の輸出企業は大打撃をうけ、やがて、「日本=円」も売られるだろう。では、次に何が買われる のか?安心して買える通貨はもうない。このような通貨不安では、金(Gold)が買われるはずだが、いまいち反応が鈍い。但し、不気味に高値安定、新しいパラダイムが生まれるのかもしれない。
 世界の金融資産は、株式市場、商品先物市場、為替市場を移動するたびに、額を減らしている。世界の株式市場から、すでに3000兆円が吹き飛んだと言われる。日本の国家予算でさえ、ネットで200兆円。今や、ヘッジファンドは、投資しているのではなく、「資産を待避している」にすぎない。本来の使命?を考えれば、末期的な状況で、ヘッジファンドの未来は限りなく暗い。だが、姿を変え、名前を変え、さらにパワーアップして蘇る可能性は50%ある。
 一方、こんな大事を引き起こしたのは誰だ?と、犯人捜しも始まっている。丁半バクチに明け暮れたヘッジファンドはもとより、大元のインチキ証書や商品先物取引までやり玉に挙がっている。だが、商品先物取引は、本来、実物取引のリスクヘッジのための仕組みで、それ自体が悪いわけではない。実商売と関係のないカジノマネーが流入したことが問題なのだ。
 マクロ視点でみると、今回の金融危機は、世界規模の金余り、過剰な流動性に起因する。2007年の世界の金融資産の合計は約20,000 兆円(2京円)で、GDPは約5,400兆円。つまり、実体経済の4倍弱のカネがだぶついているわけだ。一方、1980年、この比率は1.1倍だった。つまり、「金融資産=GDP」。あり余ったカネが、マネーゲームに流れ込むのは必然である。
 今回、金融恐慌(信用収縮)に火がついたが、問題はどこまで行くか。ある経済専門紙によると、
「何が起こっても、経済はなくならないし、世界が破滅するわけではない。それは、1929 年の大恐慌が証明している。確かに、ヒドイ状況だったが、その後みごとに回復したではないか」
だが、歴史がいつも繰り返すとは限らない
■世界恐慌1929
 恐慌は、資本主義で は避けることができない。歴史をみても、産業革命が本格化した19世紀以降、ひんぱんに起こっている。1929年のアメリカ・ウォール街の株の大暴落を起 因とする「世界恐慌」は、世界中に拡大し、第二次世界大戦の遠因にもなった。日本の大底は1931年で、恐慌前に比べ、工業生産高は8%ダウンした。アメ リカは、1932~1933年が大底で、工業生産高は恐慌前にくらべほぼ半減 ・・・ 信じられないような数字である。一方、ソ連は同時期、逆に1.8倍に増えている。
 ソ連は「共産主義=計画経済」なので、理論上、恐慌はありえない。大打撃をうけたアメリカは、株価は80%も下落、失業率は25%に達した。過剰生産が際立ち、他国にくらべ贅沢品の比率が高かったからである。アメリカ合衆国大統領のフーバーは、無為無策で時間をつぶし、無能呼ばわりされたあげく、任期満了で、寂しく政界を去った。
 その後を継いだのが、フランクリン・ルーズベルト大統領である。歴史にも登場する有名なニューディール政策で一気に解決!とはいかなかった。ニューディール政策は、ドイツのヒトラーの政策同様、社会主義的なものだったが、ドイツの方がまだましだった。実際、1936年、ドイツの工業生産高は恐慌前の95%まで回復したが、アメリカは75%にとどまった。
 もっとも、(当時の)ドイツと違い、アメリカが民主主義の国だったことが足かせになった。ルーズベルトの政策のいく つかは、最高裁から違憲判決が出たからである。とはいえ、そのハンディを考慮しても、ニューディール政策は成果を上げた、とは言えない。アメリカが本当に 恐慌を脱したのは、第二次世界大戦後、つまり、戦争経済によってである。
 一方、数字だけみれば、日本のダメージが意外に少ない。理由は2つ考えられる。第1に、積極的な植民地化政策により、植民地のGDPを上乗せできたこと。第2に、工業製品に占める贅沢品の比率が小さく、落ち込みが少なかったこと。
■世界恐慌2008
 ここで、今起こっている世界同時不況と、1929年の世界恐慌を比べてみよう。一番の違いは、世界の産業構造にある。1929年の世界恐慌では、工業製品に占める生活必需品の比率は今より高かった。そのため、消費を減らすにも限度があり、その分、落ち込みも少なかった。
 ところが、今では、工業製品の主流はパソコン、液晶テレビ、デジカメ、ケータイ、TVゲーム、自動車 ・・・ 「なくても生きていける商品=ガラクタ」がほとんど。恐慌が本格化すれば、誰もが食うことに汲々とし、ガラクタ需要は激減するだろう。だが、別の問題もある。ガラクタ産業に従事する人口比率が高い分、失業者が増えることだ。
 ところで、どういう経緯で、こんないびつな産業構造になったのだろう。一も二もなく、テクノロジーの進歩のおかげ。かつて、人類は、就労人口の90%が食糧生産に従事していた。ところが、今は10%にも満たない。
「テクノロジーの進歩 → 農業の生産性の向上」
のおかげで、1人で10人分の食糧を生産できるようになり、残る9人がお気軽な仕事をできるようになったのだ。それが、
「なくても生きている=ガラクタ商品」
 ということで、「世界恐慌2008」は「世界恐慌1929」より、大量の失業者が出る可能性が高い。それを暗示するニュースもある。2008年10月~2009年3月の間に、非正規労働者(派遣や期間工)3万人が失業するという。ところが、正社員も例外ではない。外資系大手コンピュータ企業が正社員1000人の人員削減を発表したが、正社員削減は電機業界にも広がりつつある。これほど凄まじいリストラは、戦後一度も起こっていない。
 日本を代表する企業が、取り憑かれたようにリストラを進めている。
仕事が減った分 → リストラ
なら、誰でも会社経営できる。かつて、日本企業は赤字でも雇用を守ったが、今は黒字でもリストラする。日本は、一体どうなったのだ?
 バブル崩壊後、日本企業の競争力は上がったが、そのからくりは、
人件費を固定費から変動費に変えた
変動費とは、売上高に比例するもの、例えば、原材料費。一方、固定費とは、売上高にかかわらず、一定のもの、例えば人件費。日本企業は、戦後一貫して、
「人件費=固定費」
で雇用を守ってきた。ところが、ここ10年、正社員から非正規労働者にシフトし、仕事があるときだけ雇用するようになった。つまり、人件費は変動費に変わったのである。これが不況に強い企業の正体だ。
 とはいえ、次々と明らかになる恐ろしい数字をみれば、企業がどれほど深刻かわかる。末端を切り捨て、本丸を守らなければ、全滅する可能性があるのだから。しかし、雇用は「人の生死」にかかわる問題だ。経営トップは、高い報酬と決定権が与えられている。人の上に立つ者は、どんな困難な問題にも立ち向かうべきだ。人の生死に関わる解決方法を安易に選ぶなら、サラリーマンと変わらない。
■恐慌前夜
 先日、外車ディーラの営業マンと話をした。
営業マン:「ゼンゼン売れないんで、営業が5人から2人に減りましたよ」
      「へぇー、でも、××さん勝ち組じゃないですか」
営業マン:「それが、もう一人減るかも ・・・」
      「おっ、いよいよ決勝戦ですね」
営業マン:「それ、ゼンゼン笑えないですよ」
 最近、こんな「ありえない話」をたくさん耳にする。まずは、地方版、
・車の販売店で、土日の来客がゼロ。営業マン曰く、「ドッキリ」かと思った。
・世界有数の機械メーカーの下請け会社が、大好況から1ヶ月で、仕事が半減
・Uターンで内定が出たので、会社を辞めたら、内定を取り消された。
・県内で、大企業(上場企業含む)が、1年間で3社も倒産した。
 つぎに、全国版(2008年12月)。
・国内自動車販売(軽自動車を省く)は11月としては過去最大の27.3%減
・工作機械受注額は、単月として過去最大の62.2%減
・2008年10~12月の鉱工業生産は石油ショック時を上回る10%減
・可処分所得に対する消費支出の割合が10月期で調査開始以来最低の77.2%
 これらの小事から見えてくるのは、
「生産が減少 → 失業者が増加 → 消費が減少 → 生産が減少」
つまり、負のスパイラル
 大事の前には小事が多発する。こんな状況では、ドルも株も何もかもが暴落し、未曾有の失業者を出したあげく、社会システムそのものが崩壊するのでは ・・・ 確かに、その可能性もある。だが、もう一つ未来がある。これまで同様、カジノ金融が復活する未来だ。その根拠は?この世界の支配者が、今のルールを死守しようとするからだ。これは、日本人が大好きな「陰謀ネタ」ではなく、誰もが知る情報に基づいている。
《つづく》
by R.B
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